ヤナセは「クライアントを選んで」車を売る。これがブランド力だ

黄色に青字で「YANASE」のステッカーが物語るもの

東京都港区芝浦、かつては「ウォーターフロント」と呼ばれ、ディスコ「ジュリアナ東京」のあったボーリング場 東京ポートボウル や 芝浦工業大学、インクスティック芝浦(ライブハウス)など、幾つかの「島」で構成されていた独特の文化圏が、20代から30代の若者を惹きつけてきた場所でした。

その中、YANASEは芝浦2丁目、旧海岸通りという静かな大通りに面した6階建てのビルを本社としています。

この場所は、長くYANASEの本社とショールーム、そして本社工場があり、以前の建物の上にはダイムラーベンツの大きなオーナメントが飾られていました。

ヤナセは、自動車ディーラーの中で稀有な存在です。

その理由は「直系メーカーを持っていない、自動車商社である」ことが知られています。

トヨタ、日産、ホンダといったメーカーは、必ず系列の販売会社を持ち、あるいは資本提携している地方の販社に「営業権」を与えます。

ところが、ヤナセの場合は「GM(ゼネラルモーターズ=アメリカ)」「ダイムラーベンツ(西ドイツ→ドイツ)」「VW(西ドイツ→ドイツ)」「プリンス自動車(プリンス自動車、現在の日産)」「ボルボ(スウェーデン)」「アウディ(西ドイツ→ドイツ)」「いすゞ自動車(ピアッツァ・ネロ)」「日産自動車製造・VWサンタナ」「GMサターン」「アダム・オペル(ドイツ)」「サーブ(スウェーデン)」「ルノー」とアメリカ・欧州・日本と扱う車種も非常に多く、すべてのメンテナンスを自社で行ってきました。

これは、日本の自動車販売会社としては、大変珍しいことであり、ヤナセにしかできなかったとことなのです。

インポーターとして外車販売に参入した例としては、株式会社 大沢商会(現在は ユニマットライフグループ傘下)がイタリアの「アルファ・ロメオ」を輸入。

西武グループの「西武自動車販売」は「シトロエン(フランス)」「プジョー(フランス)」「サーブ(スウェーデン)」「クライスラー(アメリカ)」「ジープ(アメリカ)」などを扱いましたが、メーカー直営の販売会社が設立され、会社は解散しました。

尚、西武グループの堤オーナーの社用車が、プジョーだったのはこのためです。

面白いのは、「栃木いすゞ自動車」という、いすゞ自動車のトラック・バスの販社です。

ここでは、昔から外車を扱っており、イタリアの「フェラーリ」「ランチア」「マセラッティ」など、高級スポーツカーを販売・メンテナンスしています。

フェラーリといえば「コーンズ」というインポーターが有名ですが、この会社は香港資本の外資系企業。

現在は世界のどの自動車メーカーも、自前で販売権を持ち、インポーターに独占販売させることはありません。

ところが、ヤナセには「総代理店」という独占販売権が与えられていました。

アメリカのGMといえば、キャデラックが有名ですが、シボレーとビュイックは大正時代から昭和初期にかけて、日本では高級外国車として誰もが知る名前でした。

関東大震災後、GMは自前の販売網を築こうとしましたが、挫折。

ヤナセはカンカンに怒り、販売権を手放しましたが、結局GMから頼み込まれ、再び販売権を手に入れた逸話が残っています。

この時の教訓が、GMの経営に深く根を下ろしているのは言うまでもなく、2016年現在アメリカのフォードは日本撤退を決めたのに対し、GMは以前ヤナセの営業力で、一定の販売台数を確保しているのです。

イエローにブルーのYANASEマークは、こうした歴史を知っている多くの人から、受け継がれています。

日本のみならず、1世紀もの間企業が続くことは、非常に稀なことです。

それも「外車販売」というジャンルで100年(1915 – 2015)継続していることは、それだけのブランドが育っていることであり、その唯一の証拠がYANASEマークなのです。

メルツェデス・ベンツの副社長に謝罪させた、ヤナセの力

今でこそ当たり前、というよりも「付いていないことが有りえない」エアコン。

実は、長らく西ドイツから輸入されていた メルツェデス・ベンツ (ダイムラーベンツは、社名)には、エアコンは付いていなかったのです。

それも、最上級クラスでさえエアコンはなく、トヨタクラウンやマークⅡに標準装備されていた時代に、ベンツオーナーは夏場に大変な思いをして運転していました。

1970年代、ヤナセは社長自ら「エアコンを付けて、日本に輸出せよ」と散々テレックスを打ちまくっていたのですが(テレックスは、海外とのファックス)、なしのつぶてでした。

その後、日本にダイムラーの副社長が日本出張に来る、ということを聞き、ヤナセの社員がベンツの最上級車で空港まで迎えに行きました。

ちょうど真夏の東京は、30℃は優に超える暑さ、その中で後席に乗車した副社長は我慢できずに「窓を開けてくれ」と大声を出します。

ですが、ヤナセの社員は頑として聞かず「ベンツのオーナーが窓を開けていたら、ベンツには、エアコンが付いていないとバカにされてしまう!」とやりかえしました。

この出来事の後、日本に輸出されるベンツはすべてエアコンがフル装備されたのは言うまでもありません。

ちなみに、日本で売られるメルツェデス・ベンツは「日本仕様」とまで言われ、シンガポールや香港で販売される車種とは「違う」とまで言われています(ダイムラーは全世界で品質は同じ、と宣言していますが、中国生産のベンツは日本には入ってきません)。

オペルやルノー、いすゞピアッツァまで、すべての車を修理できる技術力

ヤナセで車を買う、ということは何を意味しているのでしょうか?

誰もが「一度はヤナセの客になってみたい」と言わせるのは、品のあるショールームやセールスマンの物腰の柔らかさなどではありません。

やはり、サービス担当者の技術力が物を言います。

例えば、オイル交換ひとつ、ヤナセの単価は非常に高いのは事実です。

ですが、扱う車のコンディションは非常に的確であること、そして顧客の層が大変「良い」ことから、車自体の使われ方も丁寧なドライバーが集まってくる状況にあります。

よく考えてみましょう。

車は大量生産の嗜好品ですが、どの車も扱い方一つで個性が出てくるもの。

ブレーキの踏み方が早い人、エンジン回転数がいつも低回転のドライバー、そして同じような右カーブの道路ばかり走るオーナーなど、知らずしらずのうちに、車は走る「癖」を付けていきます。

ブランドのあるヤナセのステッカーを付けた「ベンツ」に乗ることは、ドライバーもそれを意識せずにはいられません。

ヤナセのヤードでわかることは、車の「癖」に興味ある技術者がかなりいることがわかります。

芝浦の工場で顧客の車を整備し、仮運転に顧客の運転にメカニックが同乗してその具合を確かめることがありますが、彼らは「できること」と「できないこと」をわきまえています。

面白いのは「車にもアタリ、外れがある」という言い方をすることです。

これは、正確に言えば「ドライバーの腕」を指しているのですが、顧客に「車の運転が下手ですね」とは言えませんから、「アタリ・外れ」がある、という言い方に終始するわけです。

ですが、ヤナセのメカニックに言われればそうなのかな…と納得するのは、やはり80万台以上ベンツを販売しているだけの裏付けなのだろう…と顧客は考えます。

ベンツはそれだけ、奥が深い車なのだ、多くのオーナーがそれを承知で乗っているのだ、クライアントはヤナセに教えを乞うようになっていく…つまり、信頼感はますます高まっていく、というわけです。

もうひとつ、大事なことは「国産車といえども、他の外車といえども、絶対にけなさない」という態度です。

いすゞは今でこそ、トラックとバスしか扱っていない会社ですが、GMと資本関係にあったことから、その延長でヤナセはいすゞの乗用車を扱いました。

外車ディーラーの中には、国産車で乗り付けてショールームに入ると、見向きもしないような営業マンがいるものです。

ですが、ヤナセの場合はそんなことはまずありません。

その証拠に、スマートというダイムラー・ベンツの超小型ブランドを扱っており、日本に入ってきた当初は軽自動車の諸元にあてがうことができたことから、ヤナセでもイエローナンバーの車が扱えたわけです(現行車は排気量の問題で普通乗用車枠)。

自動車専門商社ならではの、プライドはヤナセに勝るところはない、というのは間違いではありません。

年収1,000万円を超える営業マンが普通。それがヤナセ

最後に、ヤナセの営業マンの年収について語って行きましょう。 数字は実力を表す、ひとつの指標ですが、年収1,000万円が当然の年棒、それがヤナセです。 例えば、1,000万円の車を販売するには、自分もその程度の車を扱わなければクライアントに対する説得力はありません。 営業、メカニックいずれもがそれなりの給与をもらっているからこそ、ベンツやキャデラックのオーナーと対等に話ができ、オーナーに車について指南が可能になります。 もし「この顧客はお金がありそうだから」と下手に出るような営業、メカニックだとすれば、顧客もそれなりの人たちしか車を購入しないでしょう。 「いくら値引きしてくれた」 「サービスは他の販売会社と比べてこうだった」 そんなことばかり、口に出すようなクライアントは、ヤナセには「向いて」はいません。 お金持ちだから、ヤナセで買う…そういうことではなく、信頼で車を買うことが、一番効率がよく、一番安上がりなのだ、ということをわかっているクライアントが、ヤナセのファンであってヤナセの育ての親なのです。

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