「ロスチャイルド」家の軌跡1‐ユダヤ人とお金シリーズ特別編

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ロスチャイルド家の始祖、マイヤー・ロスチャイルドの生涯を知ろう

ユダヤ系の富豪といえば、まず思い浮かぶのが「ロスチャイルド」家でしょう。

近代ヨーロッパの歴史に燦然と名を残してきた大財閥ロスチャイルドは、今でも金融業をはじめレジャー産業などの様々な分野で大きな影響力をもっています。

ユダヤ人のことをまったく知らない人でも、ロスチャイルドの名だけは知っているという人は沢山いるようです。

「お金」についての歴史を知る上で、彼らについて知っておくことは必要不可欠です。

今回はまず、彼らの始祖である「マイヤー・ロスチャイルド」の生涯とともに、ロスチャイルド家の軌跡をみていきたいと思います。

ロスチャイルド家の始祖とされる「マイヤー・ロスチャイルド」

ロスチャイルド家の始祖である「マイアー・アムシェル・ロートシルト」は、フランス革命の少し前、1744年にフランクフルトのゲットーで生まれました。

「ロートシルト」というのはドイツ語読みであり、英語読みで「ロスチャイルド」となります。

はじめドイツのハノーバーにあった銀行で奉公し金融業の仕組みを学んだマイヤーは、1760年代から故郷に戻って古銭商を営むようになります。

当時は現在のように古銭のコレクターというのは一般的ではありませんでした。

ただ、ギリシアやローマ時代からの金貨などは精巧なつくりだったため、美術品として収集している者が多くおり、マイヤー自身もそのようなコレクターを相手に古銭商を営むうちに、その分野の目利きとなっていきました。

マイヤーは、コレクターにとっての値打ちのわからない一般人からほぼタダ同然で古銭を手に入れ、それを「マニア」である貴族の家を回って高値で売り歩いたわけです。

そのうちカタログ仕様のパンフレットのようなものまで制作し、古銭のDM販売のようなものも手がけるようになりました。

このような商売で徐々に影響力を強めていったマイヤーは、高名な貴族や領主とも面識を広めていき、屋号の「ロスチャイルド」を姓として名乗るようにもなりました。

そしてこの地域の古銭の大コレクターとして、皇太子時代のヘッセン=カッセル方伯家のヴィルヘルム9世を顧客にすることに成功します。

当時のマイヤーの商売の方策は、古銭をきっかけとして貴金属やダイヤモンドなど貴族たちの喜ぶ品物を扱うことで彼らと懇意になり、そして彼らの財務を引き受けることで莫大な財産を築くというものでした。

今で言えば、古銭商から最終的には貴族や王族など富豪達の「ファイナンシャルプランナー」として莫大な財産を築いていったわけです。

当時、このような王侯貴族たちを相手に商売をすることが、最も利益率の高い商売だったのです。

マイヤーの出世とヴィルヘルム9世

ヴィルヘルム9世は、領内の男性に軍事訓練を施すことで傭兵に育て上げ、彼らをイギリスなどに貸し出すという「人材派遣業」などを行ってヨーロッパでも随一の資産家となっていました。

プロイセン(ドイツ)のフリードリヒ大王の死後、このヴィルヘルム9世が跡継ぎに選ばれるわけですが、それに伴ってマイヤーの事業もどんどん大きくなっていったのです。

マイヤーはまず、ヴィルヘルム9世の宮廷御用商人の一人になりました。そしてイギリスを相手とした為替の割引をはじめたことで、イギリス相手の貿易業も営むようになります。

ヴィルヘルム9世はマイヤーの他にも何人かの商人に為替の割引を提案させ、競争させるということをやっていましたが、イギリスとの間で為替以外に商売を始めたのはマイヤーだけでした。

当時のイギリスは産業革命が勃興し始めたぐらいの頃だったので、マイヤーはヨーロッパ大陸よりも圧倒的に安かった綿製品を現地で仕入れ、ドイツで売るという商売を為替と同時並行で始めたのです。

そのようなお金儲けの才能をヴィルヘルム9世は高く評価します。

さらにマイヤーは持ち前の金融の知識を生かして、彼の財政運営にも関わるようになっていくのです。

具体的には、ヴィルヘルム9世とベートマン家など金融機関との間のトラブルを仲介する役割を担うようになりました。

そのような活動を長く行い、最終的にはマイヤー自身が正式な金融機関のひとつとして指定されるようになるのです。

このため宮廷の対外借款や投資事業にも参加できるようになり、活動範囲も大幅に拡大することになりました。

そんななか、いよいよ1789年にフランス革命がはじまり、その後ナポレオンが台頭してくるわけですが、その頃のドイツはこの「ナポレオン戦争」の影響で綿製品が圧倒的に不足していました。

そこに目をつけたマイヤーは、イギリスとのコネクションを利用して、マンチェスターから綿製品を安く買いつけて販売し莫大な利益を上げることに成功します。

このような活動が評価され、ドイツ国内では宮中代理人の称号を得るのです。

同時にロンドンのシティでN.M.ロスチャイルド&サンズという金融業者を設立し、本格的に金融業に乗り出すのですが、マイヤーがここに送り込んだのが、ロスチャイルド家の中でも特に有名な、息子である「ネイサン・ロスチャイルド」です。

このN.M.ロスチャイルド&サンズこそが、現在私達が知っている「ロスチャイルド財閥」のルーツなのです。

ナポレオン戦争とロスチャイルド家

1806年、ナポレオン率いるフランス軍がついにドイツのヘッセンに侵攻しました。

留まることを知らないナポレオンの勢いに、ヴィルヘルム9世自身もついに国外逃亡を余儀なくされてしまいます。

しかし簡単に逃げるといっても、全ての財産を持って逃げることなどできません。そこでヴィルヘルム9世は、残していく財産の管理をマイヤーに任せることにしたのです。それは財産の管理権だけでなく、事業権も含まれていました。

マイヤー自身は政治的には中立な立場だったため、特に何の障害もなくヨーロッパ中から債権を回収して、それを投資事業に転用して莫大な利益を上げていきました。

ナポレオン戦争すらも、マイヤーをはじめとしたロスチャイルド一族には追い風となったわけです。

そしてその過程で、当時のヨーロッパにおいて郵便事業で財を成した「タクシス家」と交流をもつようになります。

このタクシス家の始祖はフランツ・フォン・タクシスという人物で、15世紀後半にハプスブルク家の神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の郵便物の請負をきっかけとして郵便事業を独占し始めた一族として有名です。

当時のタクシス家は、ベルギーやフランス、そしてドイツからイタリアの南端に至るまで、ヨーロッパの各地を結んだ巨大な郵便網を握っていました。

このように広域にわたる郵便網を押さえている一族と深い交流を持つということは、いわば独自の通信網や情報ネットワークをもつことと同じです。

ロスチャイルド家は、その情報ネットワークを生かしてさらに投資事業を次々と成功させていくわけです。

当時は株の「インサイダー取引」などの規制はありません。

投資においては、とにかく広域な情報網をもつ者が圧倒的に強いわけですから、当時の世界ではロスチャイルド家以上に投資に強い存在はいなかったといっていいでしょう。

そのような状態で、同年、ナポレオンがイギリスに対して「大陸封鎖令」を出します。

これによってイギリスから大陸に商品が入って来なくなったわけですが、ここで何もせずにいるロスチャイルド家ではありません。

なんと彼らは商品の「密輸」を始めてしまうのです。

綿製品をはじめ砂糖やコーヒー、タバコなどは当時のイギリスや同国の植民地からしか入ってこない商品でした。

これらの商品はヨーロッパ大陸ではすっかり日常的に消費されるものになっていたので、ロスチャイルド家がイギリスから密輸してくる商品が、大陸では異常な高値で売れるわけです。

一方のイギリスでも、これまでヨーロッパに売っていたものが輸出できないわけですから、国内ではそれらの商品が供給過剰になり、完全に値崩れを起こしていたのです。

つまりマイヤー達ロスチャイルド家は、イギリスで価格が完全に低下した商品を叩き買いして、それらを本土に密輸して異常な高値で売り払うという行動に出たわけです。
無論とんでもない利益率になり、莫大な利益を彼らにもたらしました。

イギリス政府によるロスチャイルド家の利用

このような行動に出ると、周囲から顰蹙を買ってしまったと思うのが普通でしょう。

ですが当時のイギリスは違いました。

なんとイギリス政府はロスチャイルド家の手腕を評価し、反フランス同盟国に送る軍資金の輸送を担当させました。

つまり「密輸」のついでに「軍資金」を秘密裏に大陸内に持ち込むように依頼したのです。

このあたりはさすが天下の「大英帝国」といった感じでしょうか?

方々の海を荒らした海賊が貴族となるお国柄ですから、さすがと評価すべきなのかもしれません。

いずれにしても、ロスチャイルド家はそのような機会も積極的に利用して、どんどん自らの金融網を広めていったのです。

このように、「ナポレオン戦争」というヨーロッパ全体の一大事を徹底的に利用してどんどんのし上がっていったのが、彼らロスチャイルドファミリーだったというわけです。

次回はマイヤーの死後、彼の子供たちが各地で世界的なネットワークをつくっていくお話からとなります。

意外と知られていない「ロスチャイルド家」の足跡

「ロスチャイルド」という名は聞いたことがあっても、実際にはほとんど知らない人が多いのではないでしょうか? ロスチャイルドといえば常に陰謀論とともにあるようなイメージをもつ人もいると思いますが、実際の軌跡を知ることで真実の彼らの姿を垣間見ることができますし、同時に当時のヨーロッパの歴史も詳しく知ることができます。 ※参考文献一覧 デリクウィルソン(1995)「ロスチャイルド(上)(下)―富と権力の物語 (新潮文庫)」本橋たまき訳,新潮文庫. 大村大次郎(2015)『お金の流れでわかる世界の歴史』KADOKAWA.

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