タクシー業界を取り巻く環境は変えられるか?

shutterstock_145944803 (1)

タクシー業界は国の政策に翻弄されているのか

 先日大阪地裁で、一つの判決が言い渡されました。

国がタクシーの初乗り運賃を引き上げた措置に対して、大阪にある格安タクシーが「営業の自由の侵害だ」として、国を訴えたのでした。

庶民の味方とでもいうべき「格安タクシー」に対して、なぜ国は値上げをするように規制したのでしょうか。

また、今後のタクシー業界はどうなっていくのでしょうか。

格安タクシーの裁判とは?

大阪市のタクシー会社「ワンコインドーム」(以下「ワンコイン」)は、2004年に初乗り「2キロ500円」で、タクシー業界に参入しました。

ところが、2014年1月、「改正タクシー適正化・活性化特別措置法」が国会で成立、施行されました後、この措置法によって、タクシーが多い地域では国の定めた範囲内の初乗り運賃(公定幅運賃)が義務化されて、大阪の中型タクシーは「初乗り660~680円」と規定されました。

しかし、「ワンコイン」はそのまま「初乗り500円(消費増税で現行510円)」で、営業を継続しました。

これに対して、近畿運輸局は「ワンコイン」に是正を勧告しましたが、「ワンコイン」はこれを拒否しました。

そして、「ワンコイン」は、近畿運輸局から行政処分が出されるとあらかじめ予想したため、その行政処分を事前に差し止めるよう求めるために、提訴しました。

仮処分も申し立てましたが、大阪地裁の西田裁判長は2014年7月の決定で、この仮処分を認めました。

今回の判決で大阪地裁は、まず「公定幅運賃制度をタクシー業界に導入するのは、安全性や労働条件の悪化を防ぐ目的があり、運賃幅の設定は国に一定の裁量権がある」と指摘しました。

しかし、そのような国の措置は営業の自由を「相当程度制約する」と述べて、格安で運行する業者の運賃や経営実態も考慮すべきだったと批判しました。

さらに、一部のタクシー会社に公定幅を下回る運賃を認めても、ただちに値下げ競争や安全性の低下を招くとはいえず、国が一方的に狭い範囲の公定幅を定めた措置は「裁量権の逸脱・乱用」と判断しました。

また、「ワンコイン」が主張していた「公定幅の導入は憲法の保障する営業の自由を侵す」ということには直接判断を示さず、あるべき公定幅の決め方という考えから違法判断を導き出した結果となりました。

格安タクシー裁判の意味は?

この格安タクシーに関する裁判・判決には、どういう意味があるのでしょうか。

それにはまず、タクシーに対する規制の歴史を見てみる必要があります。2002年に「改正道路運送法」が施行されました。

これは、タクシーの規制緩和をすすめる法律で、この結果タクシーの新規参入やタクシーの増車が原則自由となり、タクシー会社や台数が急増してしまいました。

そして、タクシー会社間での競争が激しくなり、格安料金を掲げるタクシー会社が相次ぎました。

より安いタクシー会社を選べるため、顧客にとっては良い改正のように見えますが、一方で供給過剰や安全性を心配する声も上がりました。

またこの事態に、タクシー業界からも、「この法改正はタクシーの安全と安心を破壊する『タクシー破壊法』だ」として、反対運動が起こりました。

このような業界からの声を受ける形で、2009年に運賃の審査を厳しくするための「タクシー適正化・活性化特別措置法」が成立し、施行されました。

さらに2013年の議員立法による改正で、規制がより強まり、タクシーの多い地域を対象に、運賃幅が一律化されました。

以前は個別の審査で認可されていた運賃幅未満の料金ですが、この法改正によって一切認められなくなりました。

一連の法改正の流れを見てみると、国が「営業の自由」と「業界の安定性」との間で揺れ動いていることが、見て取れます。

2002年の「改正道路運送法」の際には、資本主義経済、自由主義経済の大原則に則り、国がタクシー業界に口出しせず、出来るだけ自由に営業をさせたいという意図が見えました。

それによって、個々のタクシー会社が営業努力をして、結果的にタクシー料金が下がり、消費者が利することになるのでは、というもくろみでした。

しかし、いざ蓋を開けてみると、資本の大きい会社が参入することで、既存の中小のタクシー会社がそれに対抗するために従業員に安い賃金で働かせるようになり、またタクシー会社の数も台数も過剰になったため、ますます中小タクシー会社の従業員にしわ寄せが行くようになりました。

労働条件が劣悪になれば、タクシーそのものの安全性を担保できないのではないかという心配が出てきました。

国としては、そのような事態は看過できず、今度はタクシー業界を規制する方向へと舵を切らざるをえなくなりました。

しかし、今回の裁判で原告となった「ワンコイン」は、この規制を「営業の自由の侵害だ」と異議を唱えたのでした。

格安タクシー裁判・判決の影響

今回、大阪地裁での判決でしたが、同じような裁判は、あと五社も同じく大阪地裁に訴訟を起こしています。

また、福岡地裁にも二社が、青森地裁にも一社が同じような訴訟を起こしています。

残り八社の判決は、今から出される予定ですが、今回の大阪地裁の判決が、一つの基準になるかもしれません。

全て判決が出そろったところで、改めて国によるタクシー規制の在り方が問われます。

タクシー業界の今後

タクシー業界の今後は、どうなるのでしょうか?

まず数字から見てみると、1991年にタクシー業界全体で2兆7,000億円あった売り上げが、2009年には1兆7,000億円と大幅に減少しています。

この数字からも、タクシー業界が厳しい状態であることがわかります。

輸送人員、つまり乗客数も1970年の42憶8,000万人をピークに、1991年には31億7,000万人となり、2009年には19億8,000万人と右肩下がりの数字になっています。

さらに驚くのは、事業者数、つまりタクシー会社数で、1991年は7,185社(個人タクシーを除く)であったのが、2009年には13,679社となっている点です。

タクシー業界の話では、「業界が一番潤っていたのは、1991年頃であるが、この二十年で業界が40%縮小しているのに、会社は倍増しており、完全な過当競争状態だ」とのことです。

必然的に、そこで働く従業員、つまりタクシーの運転手の待遇も悪くなってきます。

タクシー業界団体である「全国ハイヤー・タクシー連合会 (全タク連)」の資料によると、タクシー運転手の平均年収は年間278万円とあり、全産業平均年収が523万ですから、その54%となります。

つまり、タクシーの運転手は、圧倒的に賃金が低い上に、労働時間も長いという劣悪な環境にいることが分かります。

また、平均年齢についても、気になるデータがあります。

タクシー運転手の平均年齢は56.8歳といい、これは全業種の平均年齢と比べると、10歳以上高いということになります。

ただし、このような閉塞的なタクシー業界を自ら変えようとする動きもあります。

テレビ東京の「ガイアの夜明け」という番組で紹介された「ANZENタクシー」です。

このタクシー会社が行っているサービスというのが、「業界初」と言われる二つのサービスです。

一つは、羽田空港から都内どこでも(その反対もあり)乗せて、6,000円均一料金というものです。

二つ目はお墓参りサポートで、これはお墓参りの送迎とお墓掃除をセットして、一時間4,550円でそれ以後30分ごとに2,050円かかるというものです。

この番組の中で、「お墓参りサポートは二時間半で10,700円で、拘束時間で料金を貰う制度は、タクシー運転手の一時間の平均売り上げ、約3,000円を越える収入を出せるので、効率的である」との結論でした。

この「ANZENタクシー」の取り組みは、タクシー業界にとって一つの光明になるかもしれません。

つまり、現在のところタクシー会社の料金体系が横並びであり、しかもある地点で乗客を拾い、希望の地点まで運んで料金を受け取るという、同じ仕事内容であるから、今の過当競争を招いているのかもしれません。

実際に数字の上でも、顧客数が減少する度合いと売り上げが減少する度合いが同じなっています。

つまり、確かに過当競争ではありますが、顧客の支払う単価が下がっているのではなく、タクシーを利用する顧客が減少していることが原因なのです。

また、20年以上前に比べて新規参入の会社が増加している上に、顧客数が減少しているのだから、顧客の取り合いになり、タクシー業界全体が衰退していっているのは無理もありません。

こう考えていったら、衰退しているタクシー業界を救う打開対策は、「日頃タクシーに乗らない人、あるいは今までタクシーを使用してこなかった人に乗ってもらう」ということになります。

例えば、既に行われている所もありますが、観光地でのガイド付き「時間制(定額)タクシー」とか、海外で良く見られる「乗り合いタクシー」(同じ方向の人が複数人で乗り合わせる)などが考えられます。

衰退しつつあるタクシー業界にもチャンスか来るか?

    タクシー業界は、国の政策に翻弄されている感は否めませんが、新たな工夫で巻き返しを図ることは十分可能だと考えます。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でお金が無い.jpをフォローしよう!

タクシー業界を取り巻く環境は変えられるか?
Reader Rating 2 Votes