国会議員の香典は公職選挙法違反か?

公職選挙法と香典

先日、国会議員の政治団体から選挙区内での香典や供花などへの支出が、2014年に15人の議員から57件あることが分かりました。

これは、公職選挙法が禁じている「有権者への寄付」になる恐れがあるということです。

香典は、お通夜や告別式に参列した際に、受付に渡す習慣がありますが、どこが問題なのでしょうか。

公職選挙法の主旨

「公職選挙法」とは、公職(国会議員、地方公共団体の議会の議員・首長)に関する定数と選挙方法に関して規定された法律のことです。

1950年、「衆議院議員選挙法」、「参議院議員選挙法」の各条文と、「地方自治法」における選挙に関する条文を統合して、新たな法律が制定されました。

この法律は、通常の法律と同一の形式を有する法律として規定されているため、国会議員に関することを、直接利害関係がある国会議員によって、法律の内容が決定されたということになります。

従って、選挙制度や選挙区の割振りを、法律を制定する際の与党に有利なように導入される可能性があるので、その制定過程に疑問を呈する意見もあります。

一方他国では、立法権をもつ国会・議会から独立している「第三者組織」で定数、選挙区割、選挙方法などの制度が規定される例があります。

公職選挙法には、様々な活動制限があることから、「べからず法」と呼ばれることがありますが、一方では様々な抜け道があることから「ざる法」という声もあります。

元来、選挙運動は国民の声を反映するために、できるだけ自由でなければなりませんが、欧米諸国に比べて、この法律は選挙運動の規制や制限が、非常に多く設けられています。

この法律の対象となるのは衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の議会の議員、地方公共団体の長に関する選挙です。

国会議員の定数については、この法律によって定められおり、地方議会の議員定数については、「地方自治法」によって定められています。

また、国会議員の選挙の事務について、比例代表選挙は中央選挙管理会が管理し、選挙区選挙は、都道府県選挙管理委員会が管理しています。

その他の地方議会・地方の長の選挙については、都道府県あるいは市区町村の選挙管理委員会が管理しています。

公職選挙法での禁止事項

民主主義に則った政治が行われるためには、選挙そのものが公正に行われる必要があります。

不正に行われた選挙では、ある特定の利益を代表する者のみが当選することにつながり、国民の多様な意見が政治に反映されなくなり、民主主義が体現できません。

そこでこの法律では、選挙の公正を確保する目的で、政治家や後援団体による寄付の禁止や、事前の選挙運動の禁止、戸別訪問の禁止、飲食物提供の禁止、あいさつ状の禁止など、多岐に渡って禁止事項を設けています。

次に、どのような行為が許されて、どのような行為が法律違反になるのか、説明します。

まず、政治家や後援団体による「寄付」についてです。候補者あるいは議員と同一の選挙区内の者に対して、寄付を行うことは一切禁止されています。

例えば、招待された結婚式で御祝儀を渡すことや葬式で香典を渡すこと、あるいはお中元やお歳暮を贈ることなど、全て寄付とみなされ、できないことになっています。

次に、「事前運動の禁止」です。選挙運動は、公示日(告示日)に候補者が届出を行った日から選挙期日の前日までしか許されていません。

その期間であれば、電話をかけて投票をお願いすることなどの選挙運動も可能です。もちろん早朝や深夜に行うなど、住民の平穏な生活を侵害するような方法で行うことは論外です。

次に「戸別訪問の禁止」です。選挙民の自宅を戸別に訪問することは、買収、利益誘導、威迫などの不正行為の温床となる恐れがあるとして、禁止されています。

例えば、他の用件で選挙民の自宅を訪問したが、その際ついでに投票依頼をしたとしても、やはり禁止です。

さらに、「飲食物提供の禁止」では、誰であっても選挙運動に関して飲食物の提供をしてはならないと規定されています。

ただし、飲食物といっても「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子」や、選挙事務所で食事をするために提供される弁当は除かれています。

また、選挙区内の者に対し、「答礼のための自筆によるものを除き、年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状、その他これらに類するあいさつ状(電報その他これに類するものを含む)」を出すことも禁止されています。

あいさつ状の文面そのものは印刷し、名前を自署するといったものでも許されていません。

最後に、最も問題となるのが「買収」です。

公職選挙法第221条1項では、当選目的(あるいは他の候補者を当選させない目的)で「金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与」をした場合だけでなく、供与の申込み又は約束をしたこと、その相手方となったことなども処罰の対象としています。

この買収は、特に悪質なものという考え方に基づき、罰則の最初に規定が置かれています。

公職選挙法と香典

過去に、香典などで問題になった国会議員は、少なくありません。

例えば、民主党の菅直人元首相は2014年6月に自ら代表を務める政党支部から、選挙区内の葬儀社に供花代16,200円を支出しています。

また、自民党の鈴木淳司衆議院議員も2014年5月に、政党支部から生花代15,120円を支出しました。

2人ともに、政党支部役員の葬儀の時で、支部名で供花をしました。

これは寄付に当たるということですが、いくら支部名で出しても候補者名が類推されるとの解釈です。

菅元首相の事務所では、「政党支部からの支出は、原則として禁止されていない」とし、また鈴木議員の事務所でも「選挙目的ではなく、政党の活動であって、公職選挙法違反には当たらない」と反論しています。

また、議員自身が私的に贈った香典を「収支報告書」に記載していた例もあります。

民主党の本村賢太郎衆議院議員は2014年、政党支部から選挙区内に5件、合計17万円の香典を渡したと記載していました。

法律では、本人が参列する葬儀に限り、香典を渡すことは認められています。本村議員の事務所によると、本人が参列して手渡しをしたと言っています。

高木毅復興相の問題が発覚したのを機に、収支報告書を訂正して香典の支出を取消したということです。

平野辰男元復興相も2014年に、資金管理団体から選挙区内に3件、合計8万円の香典を渡したと報告しました。

平野元復興相の事務所では、「本人が参列し、私費で渡した。担当者の認識不足だった。不適切なものは訂正する」と答えています。

ここで、国会議員が、葬儀などで禁止されている事項を確認しておきます。

まず、議員自身が喪主を務める葬儀で、選挙区内にある寺の僧侶にお布施を渡すことは、寄付になるかどうかですが、この場合、読経などに対する報酬として、お布施を渡すのであれば、「債務の履行」(議員と僧侶との交わされた契約を実行するという考え方)ということで、寄付に当たらないとされています。

また、議員が選挙区内にある者の葬儀で、香典ではなく「お供え」の名目で線香を贈る場合ですが、これは葬儀において罰則(50万円以下の罰金)の適用外となるのは「香典」に限定されており、また「香典」は金銭に限られるので、禁止事項に該当します。

次に、議員が選挙区内にある者の葬儀に際し、香典ではなく供花や花輪を出す場合ですが、これは供花、花輪も寄付にあたるので、禁止されています。

次に、葬式の日の後に、議員自身が選挙区内の支持者宅を訪問し、香典を渡す場合ですが、これは法律で規定している「罰則の適用外規定」には、「葬式の日までの間に自らが弔問し」とあり、葬式が複数回行われる場合は、「最初に行われる葬式の日」以後に、自ら弔問して香典を出すことは、禁止されています。

また、議員の選挙区外に住所を有する友人に不幸があり、たまたま当該政治家の選挙区内にある葬祭場で葬儀が行われる場合、供花や花輪を出すができるかですが、法律に規定している「選挙区内にある者」とは、当該選挙区内に住所を有していなくても、寄附を受ける際に当該選挙区内に滞在する者も含まれると解釈されますから、禁止事項に当たります。

また、議員が選挙区内にある者に対して、もらった香典に対するお返しを贈る場合ですが、その地域で「香典返し」が社会習慣として定着し、一種の義務的な性格を持つものである場合には、もらった香典に対する返戻の程度(香典の半額程度)の香典返しであれば、寄付にはあたらないとされています。

最後に、議員が選挙区内にある新盆世帯を訪問し、「ご仏前」として金銭を供える場合ですが、これは「寄附」にあたり禁止されています。

公職選挙法と冠婚葬祭

公職選挙法では、寄付は禁止されています。しかし昔から日本は、人との付き合い、特に「冠婚葬祭」を重視した国です。

付き合いのあった人の身内に不幸があった、香典を渡したい、しかし葬儀に行けず渡せない、それでは後日渡そうか、しかし法律違反なる、と議員にとっては悩ましい事態があるかも知れません。

この「冠婚葬祭」と政治家の関係について、複数のベテラン議員は「冠婚葬祭は政治の原点」と口をそろえて言っています。

新党大地の鈴木宗男代表は、「田中先生(田中角栄元首相)は、義理を果たすために、ヘリコプターに乗ってでも葬儀に参列した」と振り返っています。

また鈴木氏自身も、通夜に参列語、寝台列車で数百キロメートル移動して、翌日に別の葬儀に出た経験があり、「地元の声もよく聞こえ、絆も深まる」と言っています。

また、民主党の江田五月参議院議員は、約20年前に、町内会に祝儀を贈るのをやめましたが、支援者の葬儀では自費で香典を1万円ほど持参し、弔電も送ったと言います。

江田氏は「お世話になった人に礼を尽くすのは人として当然。冠婚葬祭と政治の線引きは難しい」とも述べています。

この江田氏の発言に象徴されるように、香典などは昔から存在する儀礼なのか、それとも、自分の今後の選挙に有利に働くような寄付に当たるのかは、とても難しい問題です。

香典か寄付かの線引きは難しい

公正な選挙を行うことは、民主主義の大原則であり、政治家からの寄付が禁止されているが、儀礼的な香典などは例外規定が設けられています。

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