脳のもつ「癖」とは?「原因」と「結果」の法則‐その2

脳のもつ「癖」を理解して、嘘に騙されないようにしよう

『「原因」と「結果」の法則‐その1』では、「因果関係」について詳しくみてきました。

今回はそんな「因果関係」の錯誤を招きがちな脳の「癖」についてみていきます。

自分の脳の「癖」を知ることは、正しい「原因」と「結果」を導き出すために必要不可欠です。

「お金」がどのように回っているのか、あるいは「経済」とはどういう流れで動いてるのかなど、私達の日常生活についての「仕組み」を知るうえで正しい「因果関係」に対する洞察を得ることが重要です。

それは「因果関係」が逆では?

 
今回も例を挙げます。あるコンサルタントで研究者でもある人物の主張です。

彼は数年前、「日本がデフレに悩まされているのは資金に対する需要や消費に対する欲求が減退しているからだ」という趣旨の発言をしていました。

当時はまだアベノミクスなどが話題になる前であり、現在彼の主張は変わっているのかもしれませんが、当時は「日本とアメリカの構造の違いがデフレの本質的な問題なのだ」と主張していました。
 
果たしてこれは正しい主張だったのでしょうか?
 
彼はアメリカと我が国を比べた結果、アメリカでは比較的需要も消費に対する欲求も旺盛なのに比べて、日本ではその傾向が見られない。

だからデフレになっているのだといっていました。
 
しかし、これはすぐにおかしい主張であることがわかるでしょう。

『「原因」と「結果」の法則‐その1』でも述べましたが、「貨幣に対する需要」や「人々の消費欲自体が減ってしまっていること」はデフレによってもたらされた現象です。

デフレ自体はあくまでも貨幣現象ですので、需要不足や消費減退は、デフレの原因ではなくて、デフレによる貨幣の(相対的)減少によって引き起こされた結果に過ぎません。
 
つまり、これは見事なまでに因果関係が逆転している主張です。

「日本ではデフレが原因となって引き起こされる現象が認められる。

ゆえにデフレになったのだ」というなんとも頓珍漢な主張をしていることになります。

そうではなくて、デフレのために資金需要や消費欲も減ってしまっているというだけの話なのです。

ちなみに、なぜアメリカが日本のような深刻なデフレにならなかったのかといえば、しっかりとした量的緩和などの金融政策を行った成果です。

資金に対する需要が旺盛だったのも消費がさかんだったのもそこから導かれた結果に過ぎません。
 
このように、「因果関係」の判断が逆転してしまうと全体としておかしな主張をすることになってしまいます。

しかしこの手の「因果関係」が逆転している主張は、新聞などのマスコミの間でも多くみられます。

では、どうしてこのような「因果関係の逆転現象」が起こってしまうのでしょうか?
 
実はこれには、脳がもつある「クセ」が関係していると考えられるのです。

「目立つ」ものは「原因」とされやすい。脳の「癖」とは?

 
人間の脳にはある種の「癖」があると言われています。

たとえば目の前にあるものが何であるかを判断したり、相手に何かを伝えようとする場合にこの「癖」が出ます。
 
ひとつには、脳にはある種の現象は他の現象よりも「原因」として認識してしまいやすいという一定の「癖」があります。

たとえば、車の前に飛び出してきた子供がいたとします。

そして思い切りハンドルを切った車がそのまま電柱に衝突してしまいました。この場面だけをみると、車がハンドルを切った原因は「子供の飛び出し」であるように思われます。

しかし実際は居眠り運転が原因だった、なんてこともあるかもしれません。
 
この場合、運転手が居眠りをしていたという事実よりも、子供が飛び出したことの方が、周囲の人からすれば電柱への衝突の原因と考えられやすいのです。
 
また、普通の出来事やいつも起こっている出来事よりも、突然発生した出来事の方が印象に残りやすく、結果として原因とみなされやすいということになります。

人間の脳は、いつも認識している光景よりも、一際目につく出来事や浮いている人やモノを注目しやすく、何か事件が起こるとそれが原因だと思い込んでしまいがちなのです。
 
上記のコンサルタントの例で言うと、アメリカに長く住んでいたことによって「あちら」の国情や世論、経済状況に対する判断をもとに、我が国の経済状況を俯瞰した結果、あのような主張をしてしまうに至ったのではないかと思います。

当時、アメリカでは金融緩和により盛んに資金需要や消費欲の喚起がなされていました。

これは世界的にも「注目」されていた現象でした。

その「結果」だけを日常的に知っていた彼は、我が国との比較においてそれを「原因」であるかのように錯覚してしまったのではないでしょうか。

デフレの定義と原因を知っているならば、あのような結論は出てきようがありませんので、おそらく日米の比較という点を重視するあまり、自らの錯覚に気付かなかったのでしょう。
 
あくまでもこれは単なる推測であり確証などはありませんが、人間の脳はその手の「錯覚」をしてしまう「癖」をもっています。
 
何かの現象に対する人間の判断は、その現象が発生した時点での状況をどのように脳が認識するかに多大な影響を受けてしまうのです。

人間の脳のもつ様々な「癖」

 
他にも、人間の脳は沢山の「癖」をもっています。

これは「認知の経済性」という考え方にもつながります。
 
わかりやすい例からいうと、たとえば「最近は全ての日本人が不親切だ」という主張をした人がいるとします。

しかし、たいていこの場合の「全て」というのは文字通り「日本に住んでいる全ての人間」を表していることはありません。

多少突っ込んで訊いてみると、発言者の周りにいる数人しか当て嵌まらないなんてこともよくあることでしょう。
 
また「業界全体が元気がない」というような発言を稀に耳にすることがありますが、

その人の所属している業界全体が不調なのでしょうか?

業績を伸ばしている会社は皆無なのでしょうか?

調べてみると、意外と業績を上げている企業も同じくらい存在するかもしれません。
 
意地悪な突っ込みだと思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは「過度の一般化」と呼ばれている人間の脳の「癖」の代表例といってもいいでしょう。

人の脳は、物事を一般化してとらえて伝える「癖」を持っていると言われています。

周りで起こる現象を逐一認識していくよりも、一般化した方が脳が楽なのです。

 もう一つ、「曲解」と呼ばれる「癖」もあります。

たとえば「日本は成長できない」とか「若者は草食化している」とか、新聞を広げたりネットの記事を読めばこのような表現が沢山出てくることがわかるでしょう。

しかしこれらは真実なのでしょうか?
 
無論、本当のこともあるでしょう。

しかしそうではないかもしれません。

そもそもこのような主張には、たいてい定量的な根拠がないことがほとんどで、発言者の印象や思い込みが多分に含まれています。
 
そして巷に溢れる様々な情報は、人の受け取り方によってこのように捻じ曲げられたり、あるいは余計な解釈を加えられて伝えられたりします。
 
なぜなら、人間が周囲の事象を認識する場合には、自らの「価値観」や「前提認識」という「脳内フィルター」を通じて解釈しているからです。

たとえば同じ映画を見ても人それぞれ感想が違ったり、抱く印象が異なるのはこの「脳内フィルター」があるためです。

ある出来事をどのように解釈するかは、その人がもっている価値観にも左右されます。
 
一般的に、人間がある出来事を原因として判断する場合、上記に述べたような脳の「癖」が正しい判断の邪魔をしてしまうことがあるのです。

脳の「癖」を悪用した統計的虚偽

 
さらに問題なのは、このような脳の「癖」を意図的に利用して、相手に嘘の情報をさも真実であるかのように思わせる手法が横行していることです。

特に「お金」や「経済」に関する話にこのような例が見受けられます。
 
代表的なものに「統計やグラフによる虚偽」があります。
 
一例を挙げると、財務省による「税収弾性値」の誤魔化しがあります。

「税収弾性値」とは税収の増加率を名目経済成長率で割ったもので、経済成長によってどれぐらいの税収増が見込めるかを表す指標です。

この値が大きいほど経済成長によってより大きい額の税収となるということです。
 
財務省はこの値をわざと低く設定し、それをもとに「それらしい」グラフを作り上げました。どうしてそんなグラフを作成したのかといえば「たとえ経済成長をしても税収は伸びることがない」とか「財政再建はできない」といった主張をするためです。

結果として、彼らの思惑である増税や歳出削減を正当化させたかったのです。
 
見る人が見ればすぐにわかるようなグラフなのですが、この手の統計に詳しくない人がみればすっかり騙されてしまうような巧妙なグラフでした。

特に「日本は成長できない」というようなマスコミによって刷り込まれた根拠が疑わしい情報を前提認識としてもってしまっている人は、このグラフによってますますその認識を強めてしまうでしょう。人間の脳の「癖」を悪用した典型例だと思います。
 
さらに彼らは美辞麗句や言葉の印象を利用した「脅し」がとても得意です。

このときも万人に受け入れられるような言葉を使って、さも消費増税や緊縮財政が国民のためであるかのような認識を植えつけようとしていました。
 
最近でも消費税を20%以上にしても税収増が見込めるという意味不明な前提を基にしたグラフを作り上げ、今から約50年後に政府の借金の対GDP比を安定させるために約11%の財政収支改善が必要だと主張していました。

つまり彼らは「増税しないと日本の財政が破綻します」といいたいのです。

別の記事でも書きましたが、我が国の財政など今の状態でも破綻はしませんし、何より増税によって税収が減ってしまうので、財務省のこの主張は「嘘だらけ」ということになります。
 
このように、気をつけなければいつのまにか私達の「脳内フィルター」を悪用した嘘情報にすっかり騙されてしまうことになります。

一見、正しいように見える情報こそ冷静に見極めようとする姿勢が必要です。
 
別にこの手の手法は財務省に限らず、政治的なプロパガンダにもよく利用される手です。

そのグラフや統計がどのようなサンプル数を元に、どのような計算に基づいて導き出されたものであるかをよく観察する必要があるのです。

日頃から思考の「癖」や「ファイター」を認識しておこう

「因果関係の逆転化」や思考の偏りは、脳の現象認識における「癖」のために引き起こされることがあります。 そのような「癖」を自覚していないと、悪意のある情報やミスリードに引っかかってしまうことになりやすいのです。 そうならないためにも、日頃から自分の脳の「癖」や思考の「フィルター」について気をつけておきましょう。 ※参考文献一覧 E.B.ゼックミスタ・J.E.ジョンソン(1996-2002)『クリティカルシンキング‐入門編』(宮元博章・道田泰司・谷口高士・菊池聡訳) 北大路書房. E.B.ゼックミスタ・J.E.ジョンソン(1997-2002)『クリティカルシンキング‐実践編』(宮元博章・道田泰司・谷口高士・菊池聡訳) 北大路書房. 中野明(2013)『ポケット図解 「論理思考」の基本が身につく本』秀和システム.

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