ドイツ銀行の損失 8,500億円 から学ぶべきこととは?

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欧州一の経済大国、ドイツ経済の背景

2015年は、良くも悪くもドイツが世界の注目を浴びた年、といってよいでしょう。

この年、世界の目はまず西欧州の南東端、ギリシャに向けられます。

EU加入が1981年、これは1989年の「ベルリンの壁崩壊」と1990年の「東西再統一」を果たしたドイツよりも前であり(1958年に結成された時、ドイツはまだ「西ドイツ」であった)、海運国と観光立国として欧米の資産家が保養地として愛した国が、ギリシャでした。

実は、このギリシャの夏に恋い焦がれるのは、一番がドイツ人たちでした。

彼らは1年のうち2ヶ月間の夏休みを南国で過ごします。

夏休みに5日間以上の車や鉄道旅行を楽しむドイツ人は、毎年6,500万人に上り、その多くは複数回旅行に出かけていくのです。

人口8,100万人の80%にも及ぶ数は、驚異的と言える割合でしょう。

ですが、基本的に欧州ではクリスマス休暇の他は、夏の休暇だけが唯一の長期休暇。

そのため、クリスマスの時点で発売される「旅行プラン」に釘付けとなり、彼らは半年後の旅行代金を支払って予約するわけです。

日々、勤勉さと貯蓄に励むドイツ人にとって、夏のバカンスは彼らの人生を一変させます。

生きる、ということは夏のためにある…冬が長く夏でも涼しすぎるドイツの気候は、彼らの忍耐を少なくとも一年間は保ち続けているのでしょう。

ところで、VW(フォルクスワーゲン)に詳しい方ならば、このメーカーの車種名に「風」にちなんだものが多いことをご存知ではないでしょうか?

欧州で一番売れている「ゴルフ」は ガルフストリーム(英語でGulf Stream = メキシコ湾流、貿易風)から来ており、「ジェッタ」はジェット(英語で Jet、偏西風)、「シロッコ」はアフリカからイタリアへ渡る南風(伊語で Sirocco)、「サンタナ」はアメリカ・カリフォルニア州の秋に吹く季節風を指します。

代表的なものでも、VWは風に強い愛着を持っていたようで、世界中で販売するだけでなく生産できる車種を数多く生み出して来ました。

文字通り、世界にVWの風を起こし、勢いを増してきた原動力はドイツ経済であり、堅実な投資で潤った資産で世界の自動車メーカーを買収し続けたのは周知の通りです。

そして、ドイツ経済は昨今の中国市場にいち早く参入し、高級車ブランド「アウディ」が牽引役となっているVWは、中国での売り上げシェアが18.7%にも及んでいます(2014年)。

アウディは、VWのディヴィジョンのひとつであり、他社のBMW、ダイムラー・ベンツを合わせると、ドイツ車だけで、中国市場の22.5%も売り上げていることがわかります(EY=アーンスト・アンド・ヤング、ロンドンを拠点に世界で税務・会計・アドバイスなどを行う世界第3位の企業体 2014年レポートによる)。

ドイツは欧州でのギリシャのデフォルト問題でも、EU各国で、唯一「傷口を見せなかった」経済体制を維持、その底力は驚異的とまで評されてきていたのです。

世界一の販売台数を目前に、突然急ブレーキをかけたVWとドイツ銀行

2015年、VWは生産台数世界一の座を巡って、トヨタとGM(アメリカ)との間で熾烈な競争をしていました。

2014年度(2014年4月 ~ 15年3月)1,018万台を売り上げたVWに対し、トヨタは1,016万台となり、VWは初めて世界一の自動車販売企業に躍り出ます。

勢いは翌年上半期にも表れ、中国での販売台数の増加とともに、メルケル首相の盤石な経済政策で、VWのさらなる開発投資にはドイツ銀行など、欧州でも指折りのメガバンクが後押しをしていました。

ところが、VWは突然足元をすくわれます。

いわゆる「ディーゼル排出ガス問題」が、アメリカのウエストヴァージニア大学(州立大学)の検査から発覚、VW車は公表している排気ガスの数十倍もの濃度を、実際に排出し走行していることが立証されました。

ブルームバーグオンラインニュース(2015年10月2日付)によれば、VWは検査時のみ自動車の排ガス量をコントロールできる ソフトウエア「ディフィート・デバイス」を搭載し、販売していました。

通常走行時、排ガスは「公表基準値」の40倍(最大)となり、米環境保護局(EPA)は VWの該当車1台に付き、なんと 3万7,500ドル もの制裁金を科す可能性を示唆しました。

48万2,000台とも言われる対象車すべてに制裁金が課せられれば、最大180億ドル(約2兆1,600億円)ものペナルティを支払わなければならなくなり、VWの経営問題に大きな暗雲が立ち込めるのは必至でしょう。

VWは、本国のフランクフルト株式市場(DAX)など以外で、アメリカの OTCマーケット に上場(ナスダック上場前の準備市場の性格があります)していますが、その株価を拾ってみましょう。

2008年11月1日の(リーマンショック直後)株価は8.65ドル、2013年1月1日は49.74ドル、2015年3月1日は53.20ドル、そして2016年2月1日は22.68ドル、と推移しています。

問題とされるのは、2015年1月からから16年の3月にかけての期間、VWの株価は57%も下がっている、という事実です。

これは、一般株主だけでなく、金融機関の保有株式にも大きな影響を与えています。

特に、ドイツ銀行などのメガバンクは、VWへの融資額はもちろん、投資銀行としての収益が大きいことから、多大なリスクを抱えることになります。

ここで問題が2つ浮上することになります。

一つは、VW自身の体力の問題です。

現在のVWは日本円で 約2.6兆円(230億ドル)もの内部留保がありますが、自動車関係者が目論むところでは、各国の株主による訴訟リスク、株価下落による資産減、リコール費用、世界の販売会社への負担金、VW車オーナーからの訴訟など、実際には5倍もの(1,000億ドル以上)現金が必要となる、とされます。

VWが欧州最大規模の自動車メーカーであることから、ドイツ経済の雇用にも大きな影響を与えている、というのは言うまでもありません。

ところが、ドイツ経済の主役はもうひとつ「ドイツ銀行」が握っている、と言われます。

ドイツ銀行の公式サイト(Deutsche Bank AG)によれば、2014年通期での売上は、320億ユーロ(約4兆円)、純利益は17億ユーロ(約2,125億円) となっています。

ところが、2015年通期での売上は335億ユーロ(約4兆1,875億円)、純利益は68億ユーロの損失(8,500億の損失)となりました(いずれも 1ユーロ=125円 で換算)。

ドイツ銀行は個人顧客に対する業務では利益を上げているのに対し、中核部門の投資業務では、中国の華夏銀行の持ち株20%を PICC中国人民財産保険 に4,770億円で売却しています。

これは中国の経済政策の一環により、外資の中国国内銀行の資本持分の制限が新たに加わったため。

ですが、これは中国経済に深く入り込むことを狙ったドイツ銀行には、大きな評価損となります。

27万人の雇用を抱えるVW。

一方10万人の従業員を召し抱え、そのうちまず2万人のリストラを発表したドイツ銀行。

ドイツ銀行の場合は、投資要因が大きな損益に繋がったことが言われています。

ただ、問題は世界でも5本の指に入る資産規模の銀行が、破綻することはドイツ国家が許さない、という点にあります。

これは、VWにも言えます。

1,100万台ものリコール車が全世界にあったとしても、ドイツ政府はVWを見捨てることは絶対にありません。

大きすぎて潰せない、もし潰すならば、スペインやポルトガルの銀行の方が先だろう…

そう考えるのが、バンカーの一般的な考え方でしょう。

ただ、ドイツが国策でどの程度 VWとドイツ銀行に肩入れするのか?

自由主義社会、資本主義経済の牽引役のひとりである、ドイツがやり方を間違えれば、経済の世界ルールが破壊されかねません。

本当に苦しいのは、この重い宿題にあります。

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