反論上等! そもそも完全な「電気の自由化」はありえない

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電力を自由化する本当の意味は何か

2016年4月1日、日本の電気に大きな変換点が訪れます。

全国にある「電力会社」から、電気を購入しない、という選択肢が生まれるのです。

電気は、発電所が作り、それが企業や家庭に送られて、使われます。

ですが、日本では数十年前から「省エネ」という言葉が習慣化されてきました。

それも、電力会社自らが「電気を使わないようにしましょう」というメッセージを送っていたのです。

おかしいと思いませんか?

携帯電話会社に契約したところ「なるだけ電話は控えましょう」と諭されることなどありえません。

なぜ、電気を作り、売る電力会社が「省エネ」を推進してきたのでしょうか?

それは、「地域独占」という優遇されたポジションを確保していたからに相違ありません。

「使っても使わなくてもいいですよ。誰かが使ってくれるんですから…」そんな殿様商売が数十年間も継続してきたからこそ、省エネを声高に叫ぶことができたのです。

ですが、ここでその事態が崩れる局面に入りました。

とうとう、電力業界も地域間で競争相手と戦わなければならなくなったのです。

ですが、なぜ、今電力の自由化が行われるのでしょうか?

そもそも、電力の自由化とは一体どういうことなのでしょうか?

電気を作っているのは誰なのか

日本で電気を作っているのは誰?こう聞かれれば「電力会社」と答える人が大部分でしょう。

もちろん「我が家の太陽光パネルも発電している」と自負する方もいらっしゃるでしょう。

ですが、正確に言えば、太陽光パネルは発電機ではありません。

屋根の上のパネルはあくまでも、太陽の光エネルギーを電気に変えるための「一時的な仕組み」に過ぎません。

一時的な仕組み、とは「太陽光の差し込む一時的な条件下で、電気エネルギーを作る」という意味です。

人間の体に興味のある方ならば、「体内時計」という言葉を聞いたことはないでしょうか?

大抵、夜暗くなれば睡眠を取って、朝日に当たることで目が覚めるリズム(体内時計)に慣れているのが人間の体内です。

これは、脳の松果体(しょうかたい)と呼ばれる部分から放出される「メラトニン」というホルモンによって、眠気が起き、朝日の明るさを視界に入れることで、「メラトニン」の分泌が止まる体の仕組み。

面白いのは、「メラトニン」は、目が覚めた時点から、14時間から16時間後にはまた松果体から放出される、決まった動きがあることです。

少々脱線してしまいましたが、太陽光発電は言い換えれば「人が本来起きている時間」に合わせて、太陽光を電気に変えているだけであって、深夜の食卓を照らす照明や、家電製品を動かす電気にはなっていない、ということなのです。

発電とは、24時間いつでもつながっていなければならない、電気を24時間作り続けなければならない仕組みを言います。

21世紀初頭の今日、世界には様々な「電池」が存在します。

太陽光パネルを設置しているビルや一戸建てには、合わせて「蓄電池」を取り付けているケースもあるでしょう。

その多くは「リチウムイオン電池」と呼ばれるもので、リチウムは元素のひとつ、イオンは原子のひとつの状態を示します。

トヨタ自動車が先鞭をつけた「ハイブリッド自動車」には、電気モーターが付いていますが、ここにはもちろん蓄電池も含まれています。

最新型のプリウスでも「プラグインハイブリッド」という、自宅のコンセントからも充電できるタイプは、リチウムイオン電池を積載しています。

ですが、このリチウムイオン電池は、充電される電気量も従来の電池より多く、耐久性も長い反面、非常にコストが高いのも難点です。

現在市販されている、企業用の蓄電池のひとつに、パナソニックの製品があります。

「リチウムイオン蓄電システム LJ-ME15A」は、15kWh蓄電できる容量を持ちます。

15kWhとはどのくらいの電気「量」なのでしょうか?

総務省統計局が行った「家計調査」《平成26年(2014年)12月分速報》によれば、一般家庭の使用する電気量は、月平均で以下の数字になっています。

2012年:平均450.2kWh
2013年:平均441.2kWh
2014年:平均428.2kWh

2012年から2014年までの3年間だけを抽出してみても、大きな違いはありません。

ここでわかることは、15kWhは、ひと月450kWh使ったとすると、約1日分の電気量に過ぎないことが理解できます。

そして、このパナソニックの蓄電池はまさしく 15kWh 程度蓄電できる実力を持ちますが、その価格は1台あたり、定価で770万円です。

もちろん、実売価格は下がるでしょうが、一般家庭の1日分の使用電気量を蓄えておくだけで、数百万円というコストがかかり、その耐用年数は10年程度ですから、いかに作り続けている電気をその都度購入する方が、安いコストなのかは察しがつきます。

だからこそ、世界中の国が火力、水力、原子力といった発電所を作り続けているのであり、日本でも、北は北海道電力から、南は沖縄電力に至るまでの地域別の公共発電会社があり、そのほかに「火力発電所60基・水力発電所7基・地熱発電所1基」を持つ 電源開発株式会社 と、「原子力発電施設3基」を持つ 日本原子力発電株式会社 が存在します。

この2つの発電企業は、全国の各電力会社に電気を「卸売」しているのです。

自由化とは「発電の自由化」と「小売の自由化」だけだ

さて、発電する会社がどういった会社なのかは、理解できたところで、一足先に自由化されている企業向けの電気について考えましょう。

2000年3月に日本で初めて「大規模ビル」「大規模工場」に、従来の電力会社以外の「新規参入業者」からの電力販売が認められました。

とりわけ、ガス会社や鉄鋼会社など、自ら高炉を持っていたり、エネルギーを多く使う工場を持つ企業が自前で発電所を建設し、高電圧のまま供給できる大型施設に小売するケースが先陣を切って行きます。

これが2004年、2005年に大規模工場から中小規模工場へ、大規模ビルから中小規模ビルへと、ハードルが下げられました。発電した電気を高圧からより低い電圧へと変電し、送電することが認められたのです。

2016年4月に、最後の焦点となっていた、一般住宅や商店などへも電力の小売自由化が実施。

つまり、そこには「2つの自由」が達成された、ということを意味するのです。

2つ、とは?

まず、「発電の自由」です。

もうひとつは「小売の自由」です。

発電と小売、この2つが自由化された、ということは完全自由化を意味するのでしょうか?

実は、答えはNOなのです。

ここで、電気が作られ、一般家庭に届くまでの流れを説明しましょう。

まず、発電所で電気が作られます。

火力の場合は、石炭やガス、石油などを燃やし、その熱で「水」を沸騰させ、水蒸気になったことで、タービンという動力源を回します。

水力も、原子力も大きな力を発生させ、動力源を回すことで、電気を起こすのです。

この、発電所で作られた電気は大変な力を持っています。

よく「電圧」という言葉で、電気がどのくらい流れているのかを表現しますが、通常の発電所が作る電気は、1.2万ボルトか2.3万ボルトという大きさです。

ところが、発電所で発生した電気も、そのままの大きさで送られることはできないため、わざわざ圧力を高めた超高電圧の50万ボルトや27.5万ボルトに圧縮して、送電していきます。

その後、幾つかの「変電所」で、15.4万ボルト、7.7万ボルト、3.3万ボルト、と段階的に小分けにされ、最終的に街中の電柱にかかっている送電線内は6,600ボルトに落ち着きます。

ここから、電柱の上にあるドラム缶のような形の変圧器(柱上変圧器)で、更に家庭へと引き込み線に送る 100ボルトと200ボルトにまで下げられ、家電製品やスマホの充電などに使われるわけです。

さて、この中で、自由化されているのは2つ。

発電そのものの自由と、小売の自由です。

例えば、「風力発電会社が発電した電気を買いたい」というケースを考えましょう。

その場合、発電部分は「風力発電会社 A」が担当します。

この電気は、一旦変電所へ送られます。そして幾つかの変電所と送電線をくぐり抜けて「電気小売会社 B」がまず買い取ります。

B社は、顧客に電気を送る、というのではなく、使った分の「電気料金」を受け取る仕組みです。

その際、電気料金は、建物の屋外に取り付けてあるメーターで計測し、その代金を支払う仕組みから、「スマートメーター」という新たな個別の電気メーターを取り付け、その情報がデジタル化されてスマホやPCなどでも確認可能になります。

電気使用量の情報は、電気小売会社でも把握できるため、計測人を雇用せずに請求手続きだけを行うようになります。

この図式で、自由化になっていない部分があるのですが、お分かりでしょうか?

発電と小売の間には「送電」「変電」という部分が残っています。

送電線や変電所も自由化となれば、新たに土地を探して設備を作らなければなりません。

その管理やメンテナンスは新規参入できるほど簡単なものではないことから、この部分だけは従来の地域独占で来た「電力会社」が行うことになるのです。

電気は安全性と安定供給性が求められるため、どうしても送電と変電は国の認可企業でなければならないのです。

つまり、2016年の電力全面自由化の大きな部分は、変電所に届いた電気を、小売業社が「仕入」て、多くの顧客と契約し、販売する、というわけです。

そのため、携帯電話会社などが「電気を売る」のは、すでに獲得している電話顧客が相手で、電気そのものはどこかの発電所で作られたものが集められ、変電所で仕入れた分です。

それも、家までの送電線は今まで通りですので、電気そのものになんの変化もありません。

ここで勘違いしないように注意したいのは、「風力発電A社」の電気も、「原子力発電C社」の電気も「火力発電D社」の電気も、変電所を通ってしまえば、みな同じものになってしまう、という点です。

本当に、風力発電で作られた電力だけを使いたい、と考える方がいるとすれば、自前で風車を建て、タービンを回し発電し続ける必要があります。

そこには、変圧装置も必要になり、常に強風が吹き付ける場所に住まなければなりません。

そして、なにより風力発電機自体の耐用年数が、火力や水力よりもずっと短いことを理解する必要があります。

電気は作ればいい、というものではない。安全に送り届ける技術が必要

政府が「自由化」することで、国民にメリットがあるものとは「自由競争が経済発展に良い」とされたものです。 電話会社に新規参入が認められ、航空業界にも様々な競争が生まれました。 農業の世界でも、株式会社が参入できるようになり、農業生産法人という形が、多くの若年層の職場として活性化されています。 電気分野でも、自由化は誰も反対していません。 ですが、電気事業の話題になると、原子力発電の問題や、火力発電所が抱える地球温暖化の問題、水力発電所に関わるダム問題ばかりに焦点が行きがちです。 電気は発電部門と小売部門だけを捉えるのではなく、変電と送電部門もしっかり理解しなくてはなりません。 これまで地域独占事業体だった、各地の電力会社は、大事な公共財産です。 電力自由化後も、今まで以上に「しっかりした技術」と「組織力」で、地域を支える必要があります。 そのために、電気を買う側もそれ相応の費用負担が必要なのです。

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