世界の名門オックスフォード大学に集まる古今東西のお金のカタチ

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古今東西の「貨幣」の姿から、「お金」の本質を考えよう

筆者は今、出張で英国のオックスフォードに来ています。オックスフォードといえば、世界で最も古い大学の一つ、オックスフォード大学が有名です。

イギリスの有名俳優であるベネディクト・カンバーバッチや、ハリーポッターシリーズで有名な女優のエマ・ワトソンが来年度から客員講師になると話題にもなっています。

そのオックスフォード大学がもつ人類学博物館、「ピットリバースミュージアム」に展示されている貨幣のコレクションから、人間の歴史の中でお金はどのようなもので、どのように扱われてきたのかを考えてみたいと思います。

“大英帝国”の名残としての質の高い博物館

イギリスはかつて世界中の多くの国を植民地支配してきた歴史があります。そんな世界的に力を持っていたという過程で、人類学、考古学的な研究であったり、オリエンタリズム的な関心であったりという目的のために、世界各国のあらゆるモノ−—日用品から宗教的なもの、お金から美術品まで−—をイギリスに持って帰りました。

そうして集められたものを多くの人に公開しようと作り上げられたのが有名な大英博物館などなのですが、世界的な学者が集まるオックスフォード大学にもまた、古今東西あらゆる文化を「モノ」という視点から見られるような人類学博物館があるのです。

世界中の宗教や呪術に関わるモノ、武器に関わるモノ、美容に関わるモノ、「死」に関わるモノなど幅広く展示されています。

なお、日本では博物館は普通入館料がかかりますが、イギリスでは、大英博物館であれ、このような大学の博物館であれ、基本的には無料で入館できます。

入館する人の寄付などによって運営されているのです。入館が無料ということもあり、イギリスでは博物館に行くということへのハードルが日本に比べて大変低いです。

ふらっと立ち寄って関心のある展示だけでも気軽に見られる、そんなイギリスの博物館から、今回はとくに「貨幣」のコレクションをご紹介します。

コインや紙幣の前の貨幣のカタチ

ヒトが文明を作り上げ、魚と麦の交換などの物々交換から「一定の価値をもつ保存の効くモノ」を交換の相手にするようになったのが貨幣の始まりと考えられています。

昔使われていた「一定の価値をもつ保存の効くモノ」としては、貝が連想されることが多いのではないでしょうか。

実際、お金に関する漢字である「貨」や「財」、「買」といった字にはどれも「貝」という字が入っていることからも、お金として貝が使われていたのかなと想像がつきます。

しかし、世界に目を向けてみると、必ずしも貝が貨幣として扱われているのが当たり前というわけではありません。

ここでいくつか、面白い例を挙げてみます。

例えば、ニューギニアで収集されたのは、犬の歯をビーズのネックレスのように糸でつないだものです。

ネックレス状に繋がれたたくさんの犬の歯は、どれも同じような大きさ、形なので、ある決められた種類の犬の、決められた歯だけが貨幣として扱われていたのでしょう。

また、コガネムシの脚の関節をやはりビーズのように糸でつないだものもあります。

これもまた、一つ一つがどれも同じくらいの大きさに揃えられているため、ある特定の種類の虫の脚を使っているのでしょう。

これは太平洋のメラネシアで収集されたものです。

また、貝は貝でも、そのままのカタチではなく、直径7mmほどの小さな円板状に加工したものを使っていた地域もあります。

また、貨幣に鋳造された金属が使われるようになってからも、いま一般的にイメージされる、円形や楕円形のコイン以外にも、亀の形や刀の形、農具の形をしたものなどもあり、今考えると持ち運びにくそうとしか思えないものがたくさんあります。

そんな多様な形をもつ古今東西の貨幣ですが、共通しているのは、それが使われている地域のなかではその貨幣に対する価値観がちゃんと共有されており、人々がそれに対して「価値があるもの」と思っていたということでしょう。

世界のお金の使い道

米国ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による『それをお金で買いますか』という本は、お金を払えば行列に並ばなくても済む仕組みや、「名誉」をお金で買うことができる仕組みなどの現代アメリカの市場主義を問い直す本として有名です。

なお、原著タイトルが “What Money Can’t Buy”というもので、直訳すると「お金で買えないものは何か」となります。

「お金で買えないものは何か」という問いが人々の関心を集めるほど、「お金があれば大体何でも買える」という感覚が現代社会に根付いているとも言えるかもしれません。

話をオックスフォード大学の博物館に戻しますと、この貨幣コレクションの中に、貝殻のビーズの説明のところに「貝殻ビーズのお金。

妻や豚などを買うのに使われていた。1921年にソロモンにて収集」とあります。

最初に見たときには、「妻と豚を一緒にするとはけしからん!」と驚いてしまいました。

家畜を買うのと、妻を買うのが同列に表記されるのは、現代日本社会の感覚では違和感を覚えるものです。

しかし、日本にも江戸末期から明治時代から庶民の間でも行われていたといわれる「結納」という習慣も、平たく言ってしまえば「妻を買う」行為とも言えるかもしれません。

それでも、日本では「豚を買う」のと「妻を買う」のを同列には扱わないでしょう。

あるいは、「妻を買う」のと同じくらい、ソロモンでは豚を買うのも重要なことだったのではないかとも考えられます。

この貝殻ビーズからお金の使い方が世界共通とは限らないこと、歴史的にも変化していることが伺えます。

もし自分が博物館のキュレーターで、日本から遠く離れた異国の地に日本の硬貨を展示することになったら、どのように説明文を書くでしょう。少なくとも「妻や豚などを買うのに使われている」とは書きません。みなさんなら例としてどのようなものを挙げますか?

金属が貨幣になってから

金や銀や銅といった金属が貨幣として使われるようになると、先述の貝や犬の歯、虫の脚の関節など、単純に一つ、二つと数えられるような貨幣よりも使われ方がもう少し複雑になります。

なぜなら、貝や犬の歯などと違い、金属の塊を一つ持っていたとしても、その塊の中に「本当はどれくらい金属が含まれているか」がわからないからです。

すなわち、塊が大きくても金属としての純度が低ければ価値は低く、純度が高ければ価値が高くなるというように、「純度」という尺度が発生してしまったのです。

19世紀のミャンマーでは、銀の塊が貨幣として使われていたそうです。

その銀の塊の価値は重さと純度で決まるため、売買をする際には、その価値をはかるために秤とハンマー、彫刻刀などが必要だったといわれています。

このような金属の貨幣は、その金属の物質的な価値がそのまま貨幣としての価値として扱われていたといえるでしょう。

銀貨よりも金貨の方が価値が高い、小判よりも大判の方が価値が高いなど、とてもシンプルでわかりやすい仕組みです。

現代社会の貨幣を改めて見てみよう

今の私たちの暮らす社会で使われているお金に改めて目を向けてみましょう。

今私たちのお財布に入っているお金です。

例えば日本の50円玉と100円玉は同じ白銅という素材でできており、金属の純度としては同質のものといえますが、厚さはほとんど同じ、ほんの少し100円玉の方が大きいですが、重さの違いもせいぜい50円玉の穴の分50円玉の方が軽いといったところです。

100円玉の方が50円玉より2倍の質量あるということはありません。

また、紙幣を見てみれば、1,000円札より5,000円札の方が5倍大きかったりインクの量が多かったりということはありません。

また、1円玉を作るには約3円のコストがかかるともいわれており、硬貨の鋳造にかかるコストとその硬貨の価値も同じにはなっていません。

すなわち、純度と量などはもう貨幣の価値を決める尺度にはなっておらず、日本であれば日本銀行が発行する貨幣に対して一定の価値を認めますよ、という取り決めの下に貨幣の価値が決められているのです。

また、日本銀行という権威が発行する貨幣に限らず、商品券や債券などもまた、「お金」と同じように価値が付与され、運用されています。

さらに、今ではクレジットカードやネットバンキングなどの利用が増え、画面の中に表示される数字がお金として使われているという意味では、物質的な貨幣すら無くても取引ができるようになっています。

通帳に印字される数字の変化が自分の財産の量の変化になっているというのは、犬の歯や虫の脚の貨幣とは全く異なるお金のカタチになっているといえるでしょう。

現代のお金の当たり前を考え直そう

オックスフォードに集められた古今東西の貨幣のあり方を、その形と使われ方から解説しました。 今私たちの財布の中に当たり前のように入っているクレジットカードやキャッシュカード、お札や硬貨といった「お金」も、社会や時代が違うと全く異なる姿をしています。 見た目やイメージにとらわれずに、改めて「お金」とは何か、「価値」とは何かを考え直してみましょう。

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